令和万葉集:恋のいろいろ:大伴田主と石川女郎の場合

クールな美男子、大伴田主(おおとものたぬし)に恋をした

石川女郎(いしかわのいつらめ)は同棲したいと思っていた

のですが、なかなか進展しません。そこで、一計をめぐらせて、

なんと、老女に変装、土鍋をさげて、田主の家に。

「卑しいものが火を貸してほしいと来ました」

と玄関の戸をたたきました。

ところが当の家主、女郎の変装にはまったく気づかず、

火を貸して返してしまったのです。夜が開けてから、女郎は、

恋の仲介人なしに押し掛けてしまったことを恥ずかしく思い、

また願いがはたせなかったことを恨めしく思って作った歌です。

 

遊士(みやびを)と われは聞けるを 屋戸貸さず われを還せり おその風流士(みやびを)

「風流な人だと聞いていたのに せっかく来たのに私を泊めずに返してしまった。

鈍い『みやびお』もあったものね。」(石川女郎)

 

それに対して、田主の返歌といったら、

遊士(みやびを)を 我はありけり 屋戸貸さず 帰しし我を 風流士(みやびを)にはある

「泊めずに返した私こそ 「みやびお」だと思うがね。」(大伴田主)

この当時、恋の和歌はどのように伝えられたのでしょう。

恋の和歌をとりもったのは玉梓(たまづさ)の使いです。

一目を忍びながら、二人の間を行き来して、恋を実らせた

のは彼らなのです。時には恋の相談役になってくれたり、

気持ちを慰めてくれる役でもあります。石川女郎はそんな

使いがいなかったからでしょうか。使いを通さずに、直接に

自分から押し掛けるという行動に出たのです。それにしても

大胆な女性ですね。