一年にたった一度のこの七夕の夜、万葉集の七夕歌には
とても楽しい歌があります。
天の川 棚橋渡せ 織女の い渡らさむに 棚橋渡せ
あまのがは たなはしわたせ たなばたの いわたらさむに たなはしわたせ2081
「天の川に橋を渡しなさいよ。織女様が渡って行かれるんだから、橋を渡しなさいよ」
さて、日本の七夕伝説では、彦星が天の川を
渡ってくるのを織女が待っているというのがお決まりのパターンです。
ところが、この歌では、彦星が来るのをじっと待っているなど
とてもしておられない。織女自ら天の川を渡らせてあげなさい
という歌です。
もちろん、後朝の別れの後、去っていく彦星のあとを追って
織女を渡らせてやりたいという思いで詠まれた歌とも解せます。
棚橋とは、板を渡しただけの簡単な構造の橋のことで、
中国の七夕伝説では渡るのは鵲(かささぎ)橋だったのですが、
日本では棚橋になりました。しかし、中国伝説の鵲橋も美しいイメージです。
牽牛・織女の二星が逢う七夕の夜、カササギが翼を並べてできる橋のことです。
待っていられない織女を見て詠んだと解せば、
「一枚の板でいいから、橋を渡し、二人を逢わせてお上げなさい」と言っているのです。