スウェーデンの子育てや教育についてみてきましたが、キャリアではどうでしょうか。こうした教育は将来の仕事や生活にどのように反映するのでしょうか。「スウェーデンの学校では、子どものひとりひとりの意見アイデアを大事にする。自立することを求められており、日本のように用意された『正解』が得られるよう学習塾など通う習慣はありません、大人になっても、夢を持って追求するということが評価されることから、起業をめざす若者が多いのもスウェーデンの特徴のひとつです。
前述のマリーンさんは、会社にはいる前に個人事業主になりましたが、会社を経営してみて、社会制度の給付金をもらうにもざまざまな手続きをしなくてはならなく、雇用する側の大変さを知ったといいます。
しかし会社をつくってうまくいかず失敗したとしても、スウェーデンは夢を持って追求するということが、評価される社会。「スウェーデンは、再チャレンジ可能な社会といえるといいます。
ただ、育児休暇がキャリアに影響をおよぼさないわけではありません。女性登用に関しても、法律で幹部や政治家など一定の割合は女性にしなければいけないということになっていますが、一方では行き過ぎではないかというという意見もあります。意識は変わってきているとはいえ、昔の男女の役割も残っている地域もあります。
高校教師のミカエルさん。男生徒と女生徒では、女性の方が圧倒的に優秀でも結果をみると、男性が採用されたり選ばれたりすることが多い。それは自分が理解出来る人、似たような価値観の人を選ぶという傾向から、選ぶ側が男性だと、自然と男性が男性を選ぶというということになりがち。それが彼らにとってシンプル自然なことだからと言います。
ただ、スウェーデンでは、政党の候補者のリストを男女交互にしたり、閣僚を意図的に半分女性にしたり、企業の幹部の一定の割合いを女性にすることを法律で決めたり、政策的に男女平等を推進するユニークなとりくみをおこなうことに特徴があります。
それを推進しているのは、ウプサラ大学ジェンダー研究センター。スウェーデン統計局と共同で男女平等にかかわる様々な指標の国内統計をまとめて小冊子として毎年発行しています。因みに、ある機会について男女不均衡が4:6を超えると不平等と判定されます。
ジェンダー研究センターでは、それらの基礎として、スウェーデンの国家政策として男女平等を実現する効果を上げてきた法律や課税制度の改革・整備もおこなってきました。たとえば、労働法で正当な理由にあたらない解雇や差別を禁じる法律の整備や、課税の個人単位への改革などです。
スウェーデンでは、女性の議員や企業の役職者が半数近くをしめています。男女くらべると賃金は 女性は男性より25%程低くなっています。
女性は①医療、②介護、福祉、児童ケア③幼稚園、小学校の先生など、公務員が多く、男性は民間企業のアドミニストレータやエンジニア、営業職、技術、運輸関係などが多いのが特徴です。
スウェーデンも公務員の仕事は安定していて条件もよいのですが、給料は民間より低いので、民間の方が収入面ではよいという認識があります。
ウプサラ地域の女性経営者のネットワークBusiness in Heartの早朝のミーテイングでは、具体的に求めていることや提供できること をそれぞれが提示してゆきます。ビジネス上の情報を交換するだけでなく、気持ちの触れ合う付き合いを求めて始まった会です。 男性のほうがビジネスの上で信用されやすいのでは、といったデメリットへの対策も話し合っています。
スウェーデンの若者の失業率の高さと職業訓練
スウェーデンでも若者の失業率の高さは問題になっています。このグラフからも高齢者と比較して、若者の失業率の高さが目立ちます。
ミカエルさんはいいます。ヨーロッパ全体で若者の雇用が減っている影響から、スウェーデンも最近は企業が1年か1年半の給料を保障して解雇できる制度が出来、簡単に人を解雇してしまうのことが問題になっています、「以前は失業しても失業保険による社会の保障が充実していましたが、だんだん社会の保障が弱くなっていると感じるそうです。
しかし、労働市場の政策的な面からも、経験を積んでゆくことは奨励されています。自分の専門分野で仕事がなければ、別の分野で勉強して仕事をすることが失業対策にもなっています。
職業訓練は、はっきりした狙いがあって職業安定所が行なっています。卒業すれば仕事がある。というのが魅力です。
スウェーデンでは、パートタイム労働もフルタイム労働も同一時間の労働の価値は同じと考え方から賃金は同一水準で支払われ、社会保障も同じです。
育児期にパートタイム労働に従事する女性は,高い割合を示しますが,正社員として働いていた職場を退職するのではなく,正社員の身分のまま,フルタイム労働からパートタイム労働に転換し,仕事を継続することになり、このシステムが,育児期の女性が仕事を辞めずに継続就業していくことを容易にしているともいえます。
2014年時点で、日本では、妻が年収103万円以下なら納税義務がなく扶養する夫も配偶者控除を得られ、また妻が年収130万円未満なら、保険料を負担せずに国民年金や健康保険に加入することができます、超えると自ら支払い負担することになることから、働く意欲をそぐことにもなり、就労拡大を抑制しているともいえます。
まとめ:日本では、子育て支援が十分でないことから、子どもを持つと仕事やめざるをえない女性はまだまだ多いといえます。しかし、一端仕事をやめると、再就職は難しく、また専業主婦を優遇する税の制度もあることなどから女性が能力を活かしてはたらいたリ、社会の一員として貢献したいという意欲をさまたげるハードルはまだまだ高いといえます。また、パートは正社員と時給あたりの賃金で差別されているという事情もあり、個人の幸せを守る代償は日本ではスウェーデンより大きいといえます。女性の就業率と出生率が比例するスウェーデンでは、男女とも個人の幸せを重視したライフスタイルをつくるための官民一体の努力が長く積み重ねられてきているのです。